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小さなことからコツコツと

SKD11焼き入れ硬度の使い方

2026-02-14

久々に技術的なブログを書いてみることにした。
今日取り上げるのは、金型では比較的ポピュラーな材種のSKD11について取り上げてみたいと思う。



―「硬ければいい」という誤解ー



SKD11の焼き入れ硬度。

一般的には、HRC60が一つの基準と言われている。

60以上なら高硬度。
60以下ならやや抑えめ。

でもね

ここで結構な人が、
ある“思い込み”をする。


それは 

―「硬いほうがいいに決まっている」って考え方だ。



確かに硬度を上げれば耐摩耗性は上がる。
金型は減りにくくなる。

だから
HRC60以上を狙って低温戻しを選ぶ。


ところが——

ここに落とし穴がある。

 

 

―残留オーステナイトという“時限爆弾”


低温戻しを行ったSKD11には、
20〜25%の残留オーステナイトが残る。

この残留オーステナイトとというのは硬度が不安定な組織だ。

時間の経過。
加工中の熱。
衝撃。

それらをきっかけに
じわじわとマルテンサイト(安定組織)へ変化する。

そしてその瞬間——
体積が膨張する。


つまり何が起きるのか?


金型が時間を追うごとに後から勝手に大きくなる。


経年変化だ。


寸法が変わる。
平面が反る。
ひどい場合は割れる。


高精度金型にとっては致命的だ。


 


―ではHRC60以下にすればいいのか?



高温戻しを選択しても、
残留オーステナイトは概ね20%程度残る。

但し、さらにもう一度高温戻しを行えば
8〜15%まで減らすことも可能だ。


ここでこう思う人がいる。

「じゃあ、いっそのことゼロにできないの?」


理論上は可能だ。
絶対零度(-273℃)の処理をすれば限りなく"0"になる。



だが、これは量産対応としてはちょっと現実的ではない。



そこに近しい処理として登場するのが
**サブゼロ処理(深冷処理)**という方法だ。


焼入れ処理の前に-80〜-190℃まで冷却することで
残留オーステナイトを5%程度まで減らすことができる。


そう、ここまで聞くとなんとなく
サブゼロ処理が最強に思える。


しかし——

話はここからが本題だ。



 


―鍛造では「正解」が変わる


鍛造金型にかかる荷重は概ね100〜1000トン。


想像してほしい。

この凄まじい力を
金型が真正面から受けたらどうなるか?


答えは簡単。


壊れる。


硬くても壊れる。
むしろ、硬くしすぎると荷重に対して”脆く”なるのだ。


だから鍛造金型には
“硬さ”だけではなく
適度な“靭性”が必要になってくる。


力を逃がす余裕。
衝撃を吸収する強さ。

これを生み出すのが
”戻し温度”というわけだ。

 


―なぜ高温戻しを選ぶのか


低温戻しはSKD11にとって硬度が高すぎる。
靭性が不足する。

さらにサブゼロ処理で
残留オーステナイトを減らすと
ますます靭性が失われる。



結果——

脆く割れやすい金型になる。



対して高温戻しは、

・必要以上の高硬度にならない
・適度な残留オーステナイトが残る
・靭性を確保できる


しかも戻し回数で
靭性をコントロールできる。



鍛造金型メーカーの多くが
高温戻しを選択する理由はここにある。

 


 

―「経年変化は悪」なのか?


一見、経年変化は悪に見える。

だが鍛造成形においては
ある程度の“あいまいさ”が
金型寿命を守ることもある。


完全なゼロを目指すことが
必ずしも正解ではない。


用途によって、
最適解は変わる。



 

―SKD11の熱処理は“思想”だ


同じ材質でも
戻し温度で性格が変わる。
そして、それは使う用途で決めなければならない。

高精度ゲージなのか。
保持具なのか。
順送のような連続成形金型なのか。
鍛造金型なのか。


答えは一つではない。


重要なのは——

「どの現場で、どんな条件の負荷がかかるのか」

そこから逆算して
熱処理を選ぶことだ。

 

硬さを追うのか。
寿命を取るのか。
精度を守るのか。

SKD11の焼き入れ一つとっても、
金型づくりは奥が深い。

そしてその選択こそが、
金型の価値を決める。

ちょっとした選択で金型の良し悪しを大きく変えてしまうということだ。




今日からの金型設計にぜひ、活かしてみてください。


スタッフの矢野でした。
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